直子の部屋

笑ったり泣いたり踊ったり暴れたり推し事したり。

十代目 金原亭馬生「道具屋」

年始初めて寄席に行った後伺ったカフェ。

以前落語会があると聞いたことがあったのを思い出して
帰りに伺ってみると、営業していたのでおじゃましました。

 

落語会の話題を出すと、ご主人が落語がお好きで始めたのだそう。
早々に話に花が咲き、落語や地元の話題で楽しい時間を過ごしました。

カフェは地域を繋ぐ場にされたいそうで、
落語会も年に4回定期的に開いて数年になるのだとか。

カウンター上にこれまでの演題がずらっと飾られていました。

 

f:id:entsunagi705:20240109225943j:imagef:id:entsunagi705:20240109225940j:image

 

ご主人はかつて先代の金原亭馬生師匠の追っかけをしていたのだそう。
私が落語好きだと知って店に飾られていた馬生師匠直筆の色紙についてお話しくださいました。

色紙には絵が描かれており、落語「道具屋」で与太郎が店を開いている場面。
とてもお上手で驚きました。
出版記念(?)で当選して、何枚かある中から選んだ一枚。
娘のしのさんから手渡しで受け取ったのだとか。

後から師匠は落語家になる前に
絵描きになりたかった時代があったと知って実力に納得。

 

金原亭馬生(10代目)(4) 十代目 金原亭馬生

 

先代の馬生師匠は案外聴く機会は少なかったので
「道具屋」を探して聴いてみました。
一緒に何席か別の落語も聴いてみました。

 

録音時期が違い、年齢やコンディションが違う馬生師匠。

 

咳き込みながら話していらしたものもあり
昨今の上手い下手の評価だとどうだろう?と意地悪に思いたくなる録音もあったけれど、個人的にはきれいすぎる録音よりその場が感じられました。
そしてとても懐かしい「聞こえ」でした。

 

懐かしいと思い出したのは小学生時代。

4年生頃から図書館に足繁く通うようになって
本と一緒に借りて聞いていた
「カセットテープの落語」(という時代)を思い出す声。

 

今でもなぜ小学生で聞いていたのか
よくわかりません。
ただ、大人がお喋りする声が聞こえている時間を覚えていて
落語の内容をあまり覚えていません。

一度聴いた印象は「聞こえ」ていた落語。

生の高座に触れて落語は「聴こえ」に変わったんだなと
気付かせてもらいました。

 

視界に演者の顔もなく、生で見たこともなく
聴く場所に寄席の風情もない落語の音源では
落語や演者の凄さを客席で聴いたように知るのは不可能。
知れるのは音源の中に含まれる成分のみ。

生の落語を聴きに出かけるようになって
経験と感覚と想像力でが大きく違うけれど、
その実力や人となりを知った気にはなれないのは
小学生時代と同じだなと思います。

 

昨年モノクロ映像の古今亭志ん生師匠が
最新技術でカラー化されたのを見た時
妙に生々しく思ったからかもしれません。

耳だけで聴くのと
高座の映像があるのと
生で高座でのしぐさも見て客席の反応も浴びながら聴くのでは
違って当たり前。

だからこそ想像して楽しむ、にも
それぞれの楽しさがあるのかもしれません。

 

古い音源の成分で前より少し感じ取れるようになったのは
客席の反応や声。

そこにいるお客さんの反応や理解度や笑い方が
演者の声と一緒に収録された一席の中に入っています。
今と違う時代のスピード感や大らかさや鬱屈を
高座で見て晴らすように喋り客席が響く、
押すより引くなら落ち着かせる。

距離を縮められない昭和の名人の高座の音源は
そのやりとりを外から覗いている。そんな感覚で聴いています。

 

今時の配信はまた少し条件が違う別物です。
時代は合っている。
わずかな時間差で映像やラジオで演芸を楽しめる。
前後にSNSで情報が走る。
純粋に落語を楽しむだけでないから楽しい所と
生の落語会とも違う不思議体験になってきました。

 

生ではもう聴けない、間に合ってない師匠方の音源は
落語会で推しの師匠に集中して聴くのとは
出会い方から聞こえ方までつくづく違うもの。

聴く環境が客席ではなく暮らしの中だけに
心情的には小学生の頃と同じようにのんびりと聴くものでした。

ただふと

声フェチになったきっかけは
カセットテープで聴いた落語の影響かもしれない。

と思ったのでした。

 

先代馬生師匠は渋好みのイメージでしたが、
思いの外声が高く感じました。
弟子の雲助師匠の渋いお声に重ねた思い込みがあったのかもしれません。

大ネタでも若い声で想像以上に軽い一席もあったり
志ん生師匠に似ている所を次第に変えていかれたという片鱗があったり
他の落語もまた聴いてみたいです。

 

拝見した「道具屋」の色紙は挿絵として描かれたらしいと聞いたのに
書名を失念してしまいました。

あのカフェに行ってまたご主人とお話ししたら、
更に先の馬生師匠の魅力を教えてもらえそうなので楽しみができました。

 

十代目 馬生師匠の色紙も
ご興味があればぜひ実物をカフェで見てみてください。
解説付きが楽しい時間になると思います。

「道具屋」の色紙を選ぶあたり
カップから手作り、写真や古い書籍も趣味のご主人にぴったりです。
お店もゆったりできる場所でした。

 

「くつろぎCafeやまぼうし」
https://yamaboushi.shopinfo.jp/

 

maps.app.goo.gl