直子の部屋

笑ったり泣いたり踊ったり暴れたり推し事したり。

鈴ヶ森の鈴、元吉原の元の元

落語でお馴染みの「鈴ヶ森」

 

処刑場だった場所としても有名ですが
鈴ヶ森はなぜ「鈴」なのでしょうか。

 

調べたことはありませんが
前から気にはなっていました。

 

出かけた近所の図書館で
品川の地誌を目にする機会があって
その名の由来に面白い説があることを知りました。

 

https://www.dl.ndl.go.jp/api/iiif/1309480/R0000001/720,731,2912,4424/,766/0/default.jpg

広重『東海道 鈴ケ森』,文久3.
出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」

東海道名所風景」より (https://rnavi.ndl.go.jp/imagebank/data/post-213.html)

 

大井町名鑑

その面白い説は
大正15年に出版された
大井町名鑑」という地誌本で見つけました。

 

その名の通り
現在の大井町駅を中心とした地域について書かれたものです。

大井町にあった活動写真(映画館)や寄席も載っているし
この本自体がめちゃくちゃ面白いのですが
それはさておき。

 

鈴ヶ森遊女屋の鈴

慶長年間、徳川家康が江戸に入った頃
静岡の吉原(地名)で宿屋をしていた
庄司勘右衛門と他の宿屋連中が
江戸が栄えてきたから
奉公人や足洗い女を連れていき
儲けに行こうということになった。

 

いきなり江戸で商売をするのはリスクがあるので

鈴ヶ森で宿屋をして
連れて行った女を看板にした。
要するに遊女屋を始めたというわけ。

その店の表にかけた
三尺幅の紺木綿の暖簾に鈴を付け
客が来ると鈴が鳴ってわかるようにした。
この暖簾の端に付けてあったことから
鈴ヶ森と呼ばれたという。

 

その後その宿屋は許しを得て
江戸の蘆沼(今の京橋の北辺り)に
十字に道を敷いて、汐が入るのを防ぐために
土手丸く囲い道をつけ、
轡(くつわ)町と呼んだ。

この廓は後に日本橋人形町)へ移り、
更に今の吉原(浅草)へ移った。

 

吉原の元をたどれば鈴ヶ森

編者の追記には

この説からすると江戸吉原の元祖は
この大井町ということになる

いまや足洗い女(遊女)はいないが
鈴ヶ森を中心にした花街から
三味線の音が聞こえ仇姿の美形が耳目を喜ばせているのも
因縁というものだ

 

と書いています。

 

明治から昭和初期には
大井・大森花柳界
東京屈指の花街の一つだったそうです。
現在もその片鱗を残そうと活動されている方々も。

 

また、品川宿も江戸の手前にあって
吉原の北に対して品川は南と言われるほど
後に四宿のひとつとして栄えますが、
当初は宿の女は飯盛り女と呼んで
遊女とは別の体としているのも
なんとなく話が似ています。

静岡の庄司勘右衛門

静岡の吉原からは距離がありますが
静岡市内にあった二丁町という花街が
江戸に吉原ができる前に大きく栄えており
幕府公認の遊廓を作る際に
その一部を江戸に移したという話があります。

生まれ育った町の逸話であり
落語に出てくる吉原に繋がっているので興味もあり
静岡の自由研究として時々調べていたので
このつながりもまた面白い。

 

江戸に吉原という遊廓を作るきっかけになった人は
名前を耳にしたことはありましたが

素性はあまり知らないままでいたのが
突如ヒントが出てきました。

 

江戸の吉原がなぜ「吉原」なのか
静岡にある「吉原」との関係は?

そんな疑問も漠然とありましたが
もしかしたら吉原の元祖が大井町
さらにその元が静岡の吉原なのかもしれません。

 

鈴ヶ森

面白い説をみつけましたが
鈴ヶ森の地名の由来は他にも説があります。


現在も大森海岸にある盤井神社は
江戸時代以前は鈴森八幡宮(鈴森八幡社)と称され
神社に伝わる鈴の音がする「鈴石」が
鈴ヶ森の名の由来になったというもの。

 

歴史の順番から行くと
鈴ヶ森にやってきた庄司勘右衛門さんが
土地の名にちなんで
暖簾に鈴をつけたんじゃないかなと思います。

実用を兼ねていたんでしょう、
戸を開けるとベルが鳴るお店は
いまでもよくありますよね。

 

それにしても物語になっているので
一説として後世で見つけた私には
採用したい一説です。

 

真実がどれかではなく
好みの説を採用しつつ
庄司勘右衛門さんは気になります。
もう少し調べたいです。

 

もし鈴ヶ森に遊女屋があって
その後に処刑場となり
今でも名の知れる罪人達が処刑されたとなれば


盗賊や幽霊がでる場所として
芝居や噺の種になること請け合いの悪所ですね。

あるいは八幡様の鈴石で
その名も響き渡る有名な場所になったのかもしれません。

 

書籍の手触りも含めて出会えてよかった本ですが
国立国会図書館デジタルコレクションでも閲覧できるようです。

ご興味ある方はぜひ読んでみてください。


藤井正宗 編『大井町名鑑』,大井町名鑑編纂所,大正15. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/924598 (参照 2023-12-05)

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