直子の部屋

笑ったり泣いたり踊ったり暴れたり推し事したり。

彦六の正蔵師匠

今日は時代に逆行した読書感想文。

 

f:id:entsunagi705:20230711195707j:image

読みかけの本を久しぶりに手にすると、林家木久翁師匠がよく物真似される八代目 林家正蔵師匠(彦六の正蔵)の話が出てきた。

参考:聞書き・寄席末広亭―席主北村銀太郎述 (平凡社ライブラリー) P134-137

彦六師匠が「林家正蔵」を名乗っていたことは知っていた。
一代限りと決めてそのお名前を借りていたことも知っていたけれど、理由は知らなかった。

柳家小さん」の名前が関わっていたこと、先代の桂文楽師匠と先代小さん師匠が説得をしたこと。涙を流して説得に折れ「林家正蔵」になったこと。四代目 柳家小さんの一番弟子だったこともこの本で初めて知った。

そんな数奇な運命はあるとは思うけれど、なんともいえない気持ちになった。

私が知ったのもその場に同席した新宿末広の席主の弁とはいえ伝聞でしかないので
彦六師匠、当時の馬楽さんの本当の感情はわからない。
けれども思いがけない人達が関係していたことに衝撃を受けた。

別の本で知っていた彦六師匠は名前の変遷は
三遊亭福よし、扇遊亭金八、橘家二三蔵、三代目 三遊亭圓楽、五代目 蝶花楼馬楽、八代目 林家正蔵、そして林家彦六

柳家の名前が出てこなかったのは記録がないからなのかもしれない。けれど四代目小さんの一番弟子が渋々林家正蔵を名乗った裏話として「亭号としての”林家”がおかしくなっちゃった」という話が出てくると、ちょっと界隈の忖度も考えたりする。

先の文楽師匠のはからいで小さんになった五代目の師匠。
その一件とその後の真打昇進の方針のお考え。さらにその後の脱退騒動。
とうの昔のことなのに、遡って知る身としてなんともいえない気持ちだ。
どちらが正しいという答えが出せない。人気も贔屓も大事な商売に公平や実力の物差しを合わせるのは簡単ではない。

名前の話はあんまりきれいに行かないものなんだろう。
別の芸でも時を使うと聞いたことがある。

誰かにとっては継承で、誰かにとっては出世で、誰かにとっては重荷だ。

先代のすごさを体感できたとしても、違う人間だから似せたところでとやかく連のネタにしかならない。時代に合うかもまったくの別。
先代だの過去のいざこざだの云々を知らず聞かされず、継ぐ人間の感性で名前を捉えてポーンと自分の名前にするのがよさそうだ。

現代の襲名継承話は行方を見守るしかできないけれど
昔の話はいろんな立場の人が書き残してくれると騒動も客観的に追体験できて面白い。

割り切れないことをなんとか割り切ろうと真面目に取り組んでみるのも人の面白さで
関係ないのに煽ったり正義ぶったり事情も知らずに噂を立てるのも人間で
本人に本音を聞けるようなことがあれがそれこそ奇跡。

受け入れてきた正蔵師匠が打ち出す怪談噺し
生で聴いてみたかった。

f:id:entsunagi705:20230711195750j:image

kawaraban.theshop.jp