直子の部屋

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バレたらクビだと思っていた(20年前)

「バレたらクビだと思っていた(20年前)」

これは過去の話です。
20年ぐらい前。

20代後半でうつの診断を受けたものの、治療を受けながら仕事は続けられていた。(転職もしてむしろ年収上げてたのは今考えるとすごい)

自分でもいまだに運任せの事故入社だと思ってるけれど、とある上場企業で働いていた頃があった。
大企業に興味がなくて、うつになるまで面白そうなことをしている会社を選んできて、社員としては中小企業規模の職場経験しかなかった。人にも職場環境にも、そして待遇面もそこそこ恵まれて、大企業が良いってそういうことか〜と呑気に感心してた。反面会議に出ても仕事の規模も、一応こなしているけれどどこか場違い感があって、身の丈以上に評価されているように思えてもいた。それでも任されていることが素直に嬉しく、上司達も相談しやすい恵まれた環境だった。

そんな中でも、うつの治療をしていることは言えなかった。バレたら間違いなくクビだと思っていた。20年前はまだ多様性も心理的安全性もハラスメントもなにも声高に言える場は少なかったと思う。クビになる根拠があるわけではなく「うちあけたらどうなるかわからなくて怖い」状態だった。その頃はうつの治療も長くなり、一度落ち着いたはずが再発した頃。薬だけでは無理だと判断して、認知や心理的アプローチも調べて勉強しに行ったりして、家族にも打ち明けられていた。当時は家族に打ち明けることこそ最大の勇気が必要な山場で、実際打ちのめされたりしてしばらくトラウマになったりしたが、おかげで少し理解してくれていた。ただ、物理的に家族に近い状況では過ごせないことや、都心にいたい理由もあり実家に戻る選択はしたくなかった。転職に慣れていたとはいえ、暮らせる稼ぎと当時の環境を失うのは恐ろしいことだった。

仕事は頑張れているものの、ややプライベートは自暴自棄になっていた。金銭面とか恋愛面とか。躁鬱的でちょっとした黒歴史。まだまだ独りで頑張っていて抱えていて、でも本当は助けて欲しかった。多分。
一番打ち明けるのが怖かった家族を一応クリアしていたこともあって、ある時職場で信頼できる人に打ち明けてみようと試み始めた。

最初に話した人は親身に聴いてくれたように見えたが、驚くほど検討違いだった。人前に出る仕事もしていたからか堂々として信頼できる印象だったが、実は裏表が激しく口が災いになる人だったらしい。しばらくしてとあることで職場から姿を消した。後々先輩から「貴女の病気のことを周りに言いふらしていたのよ」と聞かされた。教えてくれた先輩は、仕事ぶりや様子を見て特に問題なかったから敢えてこちらに尋ねたりしなかったのだという。感謝しつつも人を見る目がないことに驚いた。

次は仕事のことで尊敬している先輩に打ち明けた。大人で落ち着きがある、そんな人でも打ち明けた途端に狼狽えた。態度に出ないよう気遣いつつも目を逸らしがちになって、言葉は励ましてくれているけれど、力になるとは言わなかった。

そんな調子で「人に打ち明ける」を続けた。今思えばひとりよがりな承認欲求的な行動で、本当に迷惑な話だと申し訳なく思うけれど、いくつかよくわかったことがある。

ひとつは、ある側面で尊敬できる人でも、なんでも相談できるとは限らない(当たり前か)
仕事の能力が高く、職場で頼りになるからといって、私的な、しかも職場でしか付き合いのない他人の面倒までみてられない。

もうひとつは、人はよくわからないことは怖い。なんでも相談して、と口で言ったとしても内容によっては手のひらを返すことがある(これも当たり前)

人に隠していたことを打ち明けるのは、恥をかくような気持ちで勇気が要るし、受け入れられなければプライドも深く傷つく。
こちらにしたら、勇気を振り絞って打ち明けたのだから、心から受け止めて欲しい、助けて欲しい、安心させて欲しい、と思うものだが、相手にしてみれば何を求めてるのかわからない、急にそんなに要求されても困る、と思うに違いない。こちらの病とやらがどんな症状でどんなことで困るのか、どう対処すればよいのかわからない人にとっては、なにをしでかすかわからない気がおかしい(かもしれない)人なのだ。相当怖いのではないだろうか。

自分でも自分の気がおかしいと思っている節があった。職場では仕事に集中できるおかげで気にしないでいられても、家に帰ると途端に不安や衝動に襲われる。時にハイになり、落ち着かせるのに時間がかかる。自分で自分の世話をずっとしている感じ。独りで抱え続けなくてはならないと思うと怖かった。

打ち明けた人達の反応を見て、初めの頃は落胆していたが、次第に人はそういうもの、そういう反応が自然なんだと思うようになった。善意だ正義だと困っているからなんでも受けていたら、自分の方が潰れてしまう。嫌なことからは逃げる、かわす、それは自分を守る処世術だ。取り組む必要がなれけばそれまでだし、その中に自分の課題があればまた違う形でやってくる。
本気で打ち明けていくうちに、相手がどう応えてくれたら私は安心するんだろう?と考えるようになった。

そんな頃に父が突然他界した。
初めて体験した身近な人の死が、家族の中で一番頼りにしていた人だった。
うつが悪化した。

(なんかドラマみたいになってきた)