先日、くろごちゃんファンド(国立劇場基金)の昨年度分のお礼と報告が届いた。
コロナ禍に始まってもう創設5年目となるそうだ。
毎月継続支援をさせていただいているが、続けられるだけの最小限で始めてその後増額もしていない。それでもどれだけの支援が集まっていて、どのような配分で使われているのか報告が届いてわずかでもそこに関わっているので意識して数字を見る。
この基金は使途を指定することができるので、特定の芸能を応援することもできる。私は指定なしの一任で3年目になる。
あなたも日本の文化芸術を支える〈立役者パートナー〉になりませんか。
くろごちゃんファンド(国立劇場基金)とは
コロナ禍、劇場が止まってしまう事態になり、国立演芸場と養成所のSNSアカウントが新たに立ちあがったのは個人的にはとてもうれしかった。
劇場係員として国立劇場に入って知ったことの中には、「もっと知られていいはずだ」「とても大事な事業だと思うのに」「知られるだけで応援してもらえるはず」と感じる事業や公演があった。
私自身が落語会で国立演芸場に足を運ぶ機会があっても、そもそも「国立劇場」が「伝統芸能に特化して公演をしている劇場」という認識がなく、仕事で必要になって知ったぐらい位。学生時代に1回だけ鑑賞教室でやってきた位では、私ならすっかり忘れていると思う。国立劇場はそれぐらい貴重な存在でもあるのだけれど、一部の観劇が好きな人達を除いて、伝統芸能公演を行っている劇場だとは一般的に知られていないと思う。
東日本大震災の追悼式の会場が国立劇場で、一般献花が出来るとテレビで知って初めて国立劇場へ足を運んだ。国の行事を行う場所という誤解も持っていた(合っても間違ってもいないけど)
国立劇場のアカウントは、公演予定だった演目を配信することになったり、公演に関してのアナウンスが必要になるなどして発信内容が変わっていった。
伝統芸能に関する配信コンテンツは確実に増え、国立劇場のものも充実した。なかなか会場まで来ることができない人に届くし、何より自分も勉強になるので当時はよくチェックした。もちろん劇場で観劇するのが良いのだけれど、ステイホーム後に関心を持すようになった人は増えたと思う。
特に、後継者の養成事業はSNSを通じて具体的な講義の様子が発信され、舞台の第一線で活躍する方々が講師として指導する様子を目にできるようになったのは革新的だった。同じ場所で仕事をしていても見ることが無い様子もたくさん知ることが出来た。
当然観劇に来る人たちからの応援の声も届くようになり、くろごちゃんファンドとは別の養成所独自のクラウドファンディングを成功させ、新たにサポーター制度も立ち上がった。こちらはより具体的に養成事業の報告が届く内容になっているようだ。
明日を担う伝承者の養成を共に支える「国立劇場養成所サポーター」を募集中!
個人的に続けているこのファンドへの参加は良く考えて始めたこともあってよい選択だった。
今日になって、先日書いた検討会の結果が朝日新聞に2日付で掲載されたらしく、ネットでも出たらしい。見出しは間違いはないけれど、有料の記事は読む気にならない。国立劇場と伝統芸能振興がどう重要なのかが伝わらないので悲しいと思った。
国立劇場、再整備見直しへ 資材高騰で事業者決まらず「国費増額を」:朝日新聞デジタル
重ねて、実演者のなかでも軽口にポストしている人を見かけて更に悲しい。判断を覆すことは簡単にできるわけじゃないけど、長く計画して進めている人をないがしろにしている言葉を見ると、事務処理の負担が大変そうな定額減税の減税額記載をさせたい気持ちもわかる。恩恵を受けていることは人はすぐに忘れるのだ。
前向きになにかできる行動はないかと発信する実演者も見た。伝統芸能に触れるきっかけをみんなで「デモ」として発信しようというものだ。官邸前で座り込んでやるものより良さそうだけれど、デモか・・・と思いながらも、そういえば、と思うことがあった。
芸事は伝統芸能だけでなく、幼いころから触れていた、「習い事」でやっていたという人は多いらしい。同世代や少し先輩世代に男女関係なく「日本舞踊」を習っていた人が意外に多いのに驚いたことがあった。それは全国的なものだったのだろうか?たしなみ?経済力?自分にその環境がなかったので知らなかっただけ?
ただ、たしなみとして習う人が多かった、と言われてもいまいち腑に落ちない。子供のころから触れていたから今楽しんでいるかは別という気もする。自分のことを振り返ると、子供の頃から関心があったことは進学や就職でどんどん離れることになっていった。今の時代ならそういうことはないのだろうか。
演芸に関しては、今の時代にあった応援の方法や魅力の伝え方が出来て、国立劇場(国立演芸場)のことを除けばむしろムード的には盛り上がっているとも思う。逆に研究や資料保存といった分野は誰がしているのかわからない。
昔上手くいっていた方法は、一度時代の背景を確認した方がよいと思う。すべての原因や理由がすぐにわからなくても、総合的に影響し合っている。
人口が減って税収が減ってその中で大事に継承されていくような形にならなければ今とこれからは難しい気がする。
新聞やネットニュースになることは「今の今だけ伝えているNEWS(ニュース)」だからいたしかたない。そういうメディアが話題とする為に書いていることと、実務の進捗は全く違うことを大人になって少しずつわかってきたけれど、国立劇場の再整備のことはどうしても感情的になってしまう。
ニュースへの反応を見ると閉場した形のまま残っていると考えている人もいて驚く。舞台も座席も中で働く人たちも凍結されていて解凍すればすぐに戻せるわけではないのに。
そういう意味でも、国立劇場と伝統芸能への支援の方法を自分で選んで続けることにしたのは良かった。豊かだから多様な芸能が育った、ということはそれぞれに継ぐ人と応援する人が必要だということ。魅力を語れる、見せることができる人がどれだけいるかにかかっている。ファンドへの参加に加えて、少しずつそれぞれの公演に観劇に出掛けられる機会を増やしたい。