直子の部屋

笑ったり泣いたり踊ったり暴れたり推し事したり。

バイブル席亭志願

劇場で仕事をすることになって買った本がある。

『席亭志願』という本だ。

ちなみに席亭になりたいと思ったことはなくて未だその気持ちは変わらない。

ひたすら推しを追いかけていた頃には無用だったけれど、今はとにかく大事にしている一冊。

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仕事仲間に読んで欲しくてもう一冊入手したぐらい何度読んでも面白い。なにがそんなに面白いのか説明できない。高座で師匠方の人となりがわかると落語が一段楽しくなる様に、落語にまつわる人達の人となりがわかって何も起こらなくても過ごす時間の楽しさが格段に上がったからかもしれない。(ただし、この感覚は落語が好きだからといって共感できる人も少数だろうことは自覚してるつもり)

直感的に手に入れたこの本を読んですぐ、本に出てくる人達と絶妙な距離で接することになった。客の立場でもなく、演者でもなく、同業でもなく、文章の中にも出てこない、でもその場に居て、目の前で仕事をすることも度々あった。

忙しくなって、落語と距離が出来たり、劇場が嫌いになりそうになると数行読めば落語好きに戻してくれる。

接客に疲れると共感できる了見がそこに書かれている。時にスカッとさせてさえくれる。

考え方は違っても、落語に近い場所にいる理由に縁さえ感じる。

コロナ禍になって劇場が止まってお先真っ暗、落語を楽しみに出かけるどころか、暮らしていけるか、食べていけるのかさえわからない頃は、落語にどっぷり浸かってきた先輩達の物語を丁寧に読み直した。落語への了見が合っている人達の言葉に安心した。不安の渦中だけれど、また劇場に演芸場にたくさんの人が寄ってくださるよう、今出来ることをしようとなんとか思えた。劇場に携わる顔がわかる人達がもうたくさんいた。どれだけ続くかわからない状況に呆然とし、気を張った生活で疲れで本も読む気になれなかったけれど、落語というより大事にしたいことを思い出させてくれるお守りになっていた。

 

最近になって機会があり、この本に登場するKさんに、この本がとても大事な一冊だとお伝えできた。本にサインをねだって、一緒に写真も撮ってもらった。

伝えた言葉も文字に起こせば歯が浮く様なキザになった様に思うけど、率直に言えたからかとても喜んでくださったようでこちらもうれしかった。

呑気に落語会に行って、喜んだり楽しんだりムカついたりケチつけたりできるのは、場があってこそ。推しの兼好師匠の落語会に行くうちにKさんを知ることになり、縁あって仕事をした劇場も推しになり、推しの箱でKさんが落語会をして推し師匠も出る循環で落語がどれだけ面白くなっただろう。

席亭には一切志願するつもりはないけれど、落語会を作る人達を面白くて格好良いと思っている私にとってこの本はバイブル。いつか知りたい著者の正体(笑)