直子の部屋

笑ったり泣いたり踊ったり暴れたり推し事したり。

次世代の国立劇場

今日の記事、長くなりました。。

その前に。

十一代目 豊竹若太夫襲名披露公演を観劇した感激の記事
続きを書けないまま過ごしていたら、Eテレで素敵なプログラムが放映されてました。
「襲名」受け継ぐ芸と心~文楽 十一代目豊竹若太夫~ - 芸能きわみ堂 - NHK

www.nhk.jp芸能きわみ堂 襲名って名前かわるだけ?いえいえ、詳しくは番組をご覧下さい!
6/7(金) 午後9:00-午後9:30|NHKプラス

Eテレの「芸能きわみ堂」はテレビでの再放送の他、見逃し配信もあるそうです。
披露目公演『和田合戦女舞鶴』も後日NHK「古典芸能への招待」で放送予定だそうでとても楽しみです。

「初代国立劇場の記憶」から

先日の文楽公演で「初代国立劇場の記憶」を手に入れました。休憩にロビーで眺めたらとにかく懐かしい空間が綴じ込められていました。国立劇場の大劇場、小劇場、国立演芸場伝統芸能情報館、劇場の中で目にしたもの、目にできなかったものが丁寧に記録されている一冊です。

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冒頭に国立劇場を運営する独立行政法人日本芸術文化振興会 理事長の発刊にあたっての言葉があります。閉場中の初代国立劇場が整備されるまでの歴史を知ることができ、長い時間と国力が必要であった経緯を知ると、改めて先人からの賜物だったのだと知ることができます。

その中に書かれている次の国立劇場のイメージは私にはとても胸踊る内容です。批判的に取り上げられる話題とは別の、他の分野との連携やコラボレーションや発信の可能性を感じさせてくれる「次世代の国立劇場」を目指すものだと感じました。

初代国立劇場の開場から半世紀あまりが経ち、私たちの生活様式は大きく変化しました。(中略)再整備期間を経て開場する新たな国立劇場では、社会と伝統芸能との距離を近づけるべく、最新の技術も活用しながら、さまざまな試みに取り組む所存です。劇場が人と人とのいっそう身近な出会いの場となるよう、新たな鑑賞・体験・参加の機会を提供していこうと思います。劇場を飛び出して、さまざまな機関と連携し、リアルな施設であれ、バーチャルな空間であれ、より多くの人々がじっくりと、あるいは気軽に伝統芸能に触れられる機会を作りたいと思います。さまざまな人々にいろいろな形で親しんでいただいてこそ、伝統芸能はしなやかで強固なものになると考えております。

独立行政法人日本芸術文化振興会「初代国立劇場の記憶」発刊にあたって より引用)

抽象的な理想と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、これを読んで思い出したことがありました。私には具体的な想像を加えられる経験があります。

20数年前、もう四半世紀近く前になってしまいましたが、外資系IT会社に在籍していた頃に加わったプロジェクトがありました。

21世紀を迎えるグローバリゼーションを目指す時代。外資系大手IT企業への入社は偶然のようなものでした。プロジェクトへの参加はその上を行く信じられない流れでした。英語のスキルも求められずに入ったはずが、毎日大量の英文メールを処理しながら担当部門の育成研修もし、技術者と営業チームの間に入って調整をしながら新システムのテストもするという、過去形でしか話せない働き方。学歴やスキルが高くて選ばれたわけではなく必死でした。それでも多国籍のメンバーで構成されたプロジェクトチームの中で仕事をした経験は、働き方の思考改革をもたらしてくれました。

新たに販売するシステム、つまり未来に世界で使われていくシステムを開発するためにまず自社で開発したシステムを運用し、世界中で通用するものにする。既存のシステムにある情報を新しいシステムへ移行しながら運用し、改善していく。自社システムを実験台にしてより良い商品を開発するチャレンジングなものです。自分の国の事だけ考えられない。他の国のことも理解する必要がある。日本ののことも理解してもらえるよう説明する必要があありました。

どの国の文化にも対応できるシステムを生み出すためにするべきことは、カスタマイズを減らすこと。つまり削ぎ落としです。システムをできるだけシンプルにし、運用でカバーするのが原則。日本はカスタマイズすることことに長けていますが、逆が求められました。運用の調整で可能なのか、システムを調整する必要性があるのか、ひたすら議論しました。

それまで海外の文化や人とは触れてきて日本との違いを知る機会もあったのに、日本がとにかく独自の慣習に溢れていて、独自の発展を遂げている多様で多彩でカオスな国だったのだとその時初めて自覚しました。

「今までのやり方を変えること」「新しいやり方を受け入れること」の難しさも思い知りました。たくさんの人に新しい方法を受け入れて使ってもらうことは簡単ではありません。意識的に受け入れて実行しないと「元の方がよかった」になってしまうのです。

日本で暮らしていると当たり前の習慣を、海外の友人達に疑問として投げかけられたおかげで、多角的客観的に見る習慣ができました。

意識を持って変化を受け入れ、新しいことを試す、上手くいかない時にも安易に元にもどさず理由を調べる考え検討する工夫する、それを繰り返していく。
この思考の大切さは、伝統芸能の世界でも通じる普遍的なものだと思います。

国立劇場について話題になることは、建てる費用や国費を増やすべき、空いてるなら使わせたらいいのではないか、ホテルが付随するなんて恥ずかしいと全て後ろ向き。建て直しに別案を論じる人の構想は、予算を考えない理想論で集客効果以外の機能は語られてない。それぞれが知っている「これまでの国立劇場」が「無くなったら困ること」が中心に論じられてますが、実際の議論の場で本当にそんなことしか話されていないのでしょうか?そんなはずないと思います。

それに比べると、次世代の国立劇場への一文には、初代に備えきれなかった伝統文化、日本文化の発信拠点として対応できるシステムを整備しようという構想から、人が回遊できる場づくりを兼ね備えた国立劇場を作りたい、そのために民間のアイデアを広く求めたいと考えられているのではないかと感じました。その中にはデジタル化など伝統芸能の領域では取り入れることが難しいと考えられてきたものもあると思います。

次の国立劇場を建てると決まった途端にコロナ禍となり、実演者をはじめ携わる多くの方が活動できない苦難の中に立たされました。新しい国立劇場へ意識が向けられない状況があったと思います。

そんな中でも、伝統芸能の活動を継続し記録を残していくためにされた工夫として、動画や配信での発信が多く行われました。コロナ禍の困難への工夫で、デジタルの力を使流れが急速に進みました。ある意味では、伝統芸能と相性が悪いと思い込まれていた難題をその時期にクリアできたのではないかと思います。それも日本の伝統芸能を継いで行く強い意志からでた工夫。今はもう珍しくなくなりましたが、近年の活動の中で歴史に残るものだったのではないでしょうか。

描かれた次世代の国立劇場への志は高く、けれども入札には条件や詳細が見合わなかった。検討を加えて三度目をしたらよいのではないでしょうか。大きな買い物をするのに、2回で決めなくてはいけないというルールはないと思います。批判された施設も、私はあった方が良いと思います。初代の時から全国から人が集まる場所ですから。海外からのゲストが集まるなら、足りないぐらいかもしれませんよ。

次世代は50年前と全然違う

先日、国会で建設業の人手不足に対応する改正建設業法などが参議院で可決成立したというニュースを見ました。

建設業界の人手不足対応へ 改正建設業法など参院本会議で成立 | NHK | 働き方改革

人手不足は建設業だけではありません。人口が減ります。高齢者が増えます。担い手が来てくれるかどうかはお金の問題ではありません。

国立劇場を建てること、運用すること、文化活動、伝統芸能への国や自治体での予算を確保していくこと、お金のことも、お金以外の懸念もまとめてやってくる時代です。

初代国立劇場が出来た頃は高度経済成長期、初代国立演芸場の建設が立案され計画が進められた頃は第二次ベビーブームが重なります。日本の総人口もピークを越えへ減少の局面に入ったといわれています。40年50年を越えて伝統芸能にまつわる事業の当たり前はもう当たり前ではないといえるでしょう。

伝統芸能の思いがけない魅力をSNSで見た

6月6日に浪曲師の玉川奈々福さんの呼びかけで行われたネットデモ「#伝統芸能稽古事のススメ」では、多彩な伝統芸能やそれに関わる習い事を教えている方、教わっている方の声を知ることができました。

デモと聞いてどうなるのかと思いましたが、国立劇場でも揃わない多彩なラインナップが日本の文化、日本各地の残されている芸能として存在しているぞ!と愛を叫んでいるようでした。

高尚さを説いたり、付加価値を押し付けたり、価値や知識を知るか知らないかでマウントを取ったりして、「伝統」が年寄り臭く面倒なものと思わせないことは、ひとつ大切に感じます。目指したい先輩、格好良い先輩、話しやすい先輩が舞台のだけでなく、客席にも増えたらいいなあと思います。

ここに書いていることが高尚さを説いたり、付加価値を押し付けたりになっていないことを願うばかりですが。。

次世代の国立劇場への個人的期待

伝統芸能は、ビジュアルからでも入れるし、ルーツの深掘りもできる成熟系カルチャー。ポピュラーとマニアックを併せ持つ面白いもの。最新の発信方法を使ったりデジタルカルチャーと上手く結びついて、国立劇場が日本文化を繋ぐ情報ハブになって欲しい。

国立劇場へ行けばJAPANで面白い体験ができる!」「国立劇場伝統芸能情報が離れていても知ることができる!」「国立劇場でやってる公演を近くでも見たいとリクエストできる!」と遊びに行くのが自然な、身近で在ることが自然な、ゲストを連れて行きたくなるような存在になったらな!

海外の人達と仕事をした時、休日に相撲を観に一緒に国技館へ行きました。観戦の間に英語のガイドを聞いていたゲストの方が、私よりずっと相撲に詳しくなって、英語で説明してもらいました。笑い話だけど、今は相撲の面白さはその時よりずっとわかる。応援したいと思う。

伝統芸能を応援したい人は少なくない。初代の国立劇場をそのまま使えばいいという人もあの場所が好きだったから。応援しているから。

だとしたら、新しい国立劇場が出来ることを拒まず、機運を呼び込んで欲しい。

次世代の国立劇場にもっと夢を描いて、今思う魅力を、国立劇場だけに拘らず、まだ見たことがない、面白いことに気づいていない人に届くアイデアや活動で伝統芸能と次世代の国立劇場が必要不可欠と魅せつけて欲しい。

ブログに書いていることは野暮は承知。それでも再整備のとてつもなく面倒な手続きを踏んでいる人がいるわけなので、新聞ニュースのうわべの話では納得できないので、自分で思うことを書いて、確認できるものは目を通して、次世代の国立劇場ができるまでを見届けられたらと思います。