週末の散策で思いがけず楽しんだ山谷堀。帰宅した後調べてみると、堀の遺構を詳しく記録している方も多くいらして、夜には見つけられないものもたくさんあったようです。
「山谷堀 光回廊」は山谷堀の川の流れと桜をイメージしたイルミネーションだということで、ピンク色が印象的。浮世絵でも山谷堀を確認してみることにしました。
隅田川の桜並木越しに山谷堀と左に待乳山聖天が見えます。対岸からの景色ですが、桜と山谷堀のイメージにピッタリです。
引用:歌川広重(二代)/画 : うたがわひろしげ にだい ,山口屋藤兵衛『江戸名所 隅田川まん花』(台東区立中央図書館所蔵)
「デジタルアーカイブシステムADEAC」収録
(https://jpsearch.go.jp/item/adeac-R100000094_I000119773_00)
次は初代広重の『名所江戸百景 真乳山山谷堀夜景』
先日は夜景で見たので隅田川の景色はこちらに近いものでしたが、イルミネーションや街の灯りは今よりずっと暗かったんだろうと想像します。
歌川広重(初代)/画 : うたがわひろしげ しょだい,魚屋栄吉『名所江戸百景 真乳山山谷堀夜景』(台東区立中央図書館所蔵)
「デジタルアーカイブシステムADEAC」収録
(https://jpsearch.go.jp/item/adeac-R100000094_I000119587_00)
所蔵元の解説によると、これは隅田川の対岸にある三囲稲荷神社付近から見た景色だとか。三囲稲荷神社も当時から有名なランドマークでしたが、前の作品にもある通り、春には桜並木でお花見で賑わう場所だったのでしょう。
中央の小高い丘が待乳山、右下が山谷堀。山谷堀にかかる今戸橋付近に舟宿や料理屋の明かりが見える。空には雲母や貝を砕いた粉を用いる雲母摺(きらずり)という技法が使われており、角度によってきらきらと光って見える。
(引用:台東区立図書館/デジタルアーカイブ 解説より
https://adeac.jp/taito-lib/catalog/mp050260-100050 )
空には星も描かれていますが、実際は雲母摺でキラキラしているはずです。デジタルでは見ることが出来ないのでやはり肉眼でも見てみたいものです。
先日は山谷堀公園を通過しただけだったので、山谷堀にあった舟宿や料理屋はあまりイメージできませんでした。そこで地図の記録を探すと、「今戸箕輪浅草絵図」を見つけました。江戸時代後期の「江戸切絵図」のひとつです。
地図中央辺りに吉原、下が隅田川。縦に伸びる水路が山谷堀、左手に浅草寺が見えます。

景山致恭,戸松昌訓,井山能知//編『〔江戸切絵図〕』今戸箕輪浅草絵図,尾張屋清七,嘉永2-文久2(1849-1862)刊. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1286208 (参照 2025-01-27)

左の浅草寺の裏に田んぼと吉原。吉原と並行に伸びる道が日本堤。その脇に伸びる水路が山谷堀ですが、吉原へ向かう粋客が乗る猪牙舟(ちょきぶね)で隅田川から乗り込むのは山谷堀へ入ってほどなくの今戸橋あたりまでだったとか。船宿で降りて日本堤を歩いて吉原へ向かいました。時々その一片を落語でも聴くことがあります。
余談ですが、吉原へ舟で向かう客は神田柳橋の船宿から舟で出て、大川(隅田川)を上り首尾の松が見える頃に山谷堀へ入っていきます。今宵の首尾を語り合ったのが首尾の松の名の由来という一節も。舟を降りればいよいよ吉原も近いと盛り上がる場所だったのかもしれません。首尾の松というと、柳亭市馬師匠の落語で名の由来を聞いたのを思い出します。語り口がなんとも粋でこの浮世絵のような風情を感じました。

歌川広重筆,By Utagawa Hiroshige (1797–1858),東京国立博物館,Tokyo National Museum『名所江戸百景・浅草川首尾の松御厩河岸』(東京国立博物館所蔵)
出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム「ColBase」(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-10569-7345)

浅草寺と待乳山聖天(聖天社)山谷堀に挟まれて芝居小屋が集まる猿若町が見えます。
ここに芝居小屋が集まったのは江戸後期の天保の改革以降。蔦重が活躍した時代からは下りますが、山谷堀の船宿も芝居小屋への中継地点にもなったようです。浮世絵の視点から見ると題材に事欠かない場所ですね。
黙阿弥|黙阿弥とその時代|江戸三座、猿若町へ移転|文化デジタルライブラリー
古地図は画像だと文字がわかりにくいですが、古地図をよりわかりやすくデジタルアーカイブした資料もありました。地図に加えられたアイコンをクリックするとそこにあった芝居小屋もわかります。
〔江戸切絵図〕. 今戸箕輪浅草絵図|IIIF Curation Viewer
[21-478] ◯山谷堀ト云 | 江戸マップβ版 (拡大図、位置合わせ図を参照)
今昔の地図を比較できる方法は知っておくと楽しいものです。また、国立国会図書館のジャパンサーチでは、同じ場所を描いた浮世絵や写真をキーワードからイメージでまとめて探せたり、人物に関する資料を探すこともできます。所蔵施設の連携先も増え、資料点数も増えており、調べるのもより楽しくなりました。
今昔マップ on the web:時系列地形図閲覧サイト|埼玉大学教育学部 谷謙二(人文地理学研究室)
デジタルアーカイブも参照できる資料が日々増えているようです。更なるポータルサイトも作られている様子。
浮世絵などに書かれている仮名は訓練しないと読めないので、今後は文字の壁を超えるのが楽しみになったり、AI技術を駆使するなども期待しますが、現時点でも浮世絵や地図なら文字がさほどわからなくても見比べられて楽しめます。
浮世絵作品は所蔵先で解説を加えられた情報も様々なので、同じ浮世絵から学術的なものから入門編のわかりやすいものまで様々参照できるのもひとつの楽しさです。
英語を学習するAIチューダーなんていうのがあるぐらいだから、浮世絵や江戸時代の本に書かれている変体仮名も同じように学習できるようになったら、日本らしい文化を知る楽しみはグンと増えそうです。なぜ有名か、知られているのか、観光地になったのか、作品が残されているのか。興味を持った土地のことを知るのは楽しいものです。
先日の散策で吉原の見返り柳から土手通りの途中ですれ違った人達も、浅草から吉原を巡る観光の人らしく、山谷堀 光回廊のイベント会場でお会いした方達の話でも大河ドラマをきっかけに観光で出かける方が増えている様子。
今回はデジタルアーカイブを使って浮世絵を楽しんでみましたが、浮世絵の魅力は画題だけでなく生で見る技術や質感も含んだもの。SNSで大河ドラマで盛り上がる浮世絵関連の情報を見たら、近くで実物の浮世絵を見られる場所で体感してみて欲しいです。
美術館や博物館、歴史館といった場所以外にも、もしかしたらお蕎麦屋さんに飾ってあるかもしれない。図書館にあるかもしれない。古書店で手に取れることもあります。
首都圏まで来れる方は、興味持った発信先の美術館へ行ってみたり、浅草や吉原に出掛けてみたり、美術館や蔦重ゆかりの地域へも出かけてみてほしいですね。浅草や日本橋でも盛り上げる工夫をされているようです。できればパネル展示をする会場でも、プリントした紙だけじゃなく、本物の浮世絵も直接目にできるよう置いて欲しいものです。江戸時代の古い浮世絵もすごいですが、今大河ドラマで再現されているような現代の職人さんが仕上げたものも、目にする機会が増えてほしいですね。
奥浅草観光協会さんの過去イベントを拝見すると、先日散策で通った待乳山聖天にも浮世絵の所蔵がある様子。また実物の浮世絵でも、待乳山聖天や山谷堀の景色を見れる機会を探してみようと思います。

