昨日はNHK大河ドラマ「べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~」の第7回が放送されましたね。蔦重がついに吉原細見を作る回でした。
※ネタバレあります
【大河べらぼう】第7回「好機到来『籬(まがき)の花』」まとめ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK
【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第7回 - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK
〇 籬の花
べらぼうナビによると、蔦重版の吉原細見「籬の花」は以前の放送でも紹介されていた愛知県の西尾市岩瀬文庫に所蔵されているそうです。
足を運んで手に取るのは難しそうなので、「一目千本」の時と同じように見れないか探してみると、デジタルアーカイブにもありました!江戸東京博物館と関西大学に所蔵されている蔦重版の吉原細見「籬の花」。さっそくめくってみました。
『[新吉原細見]/籬乃花』(部分), 安永四(1775),蔦屋重三郎 刊, 江戸東京博物館所蔵 出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/100450858
(参考)江戸東京博物館デジタルアーカイブス https://www.edohakuarchives.jp/detail-119359.html
江戸博の本は虫食いなどが見えます。関西大学のものは画像がモノクロームなので、文字の黒が際立って読みやすく感じます。松葉屋の屋号が暖簾の様に仕立てられていたり、瀬川の名前も見つけることが出来ました。

江戸東京博物館所蔵 出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/100450858

『籬の花』(部分), 安永四(1775),蔦屋重三郎 刊, 関西大学図書館所蔵
出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/100388821
〇ナンバーワンの御職(おしょく)
べらぼうナビによると、花の井の前に瀬川を名乗った四代目は「宝暦8年に松葉屋の筆頭となった」とありました。
吉原では店のナンバーワンは御職(おしょく)と呼ばれました。落語では時々この呼び名を耳にします。でもこの呼び名は天下御免の吉原だけ。品川や千住、深川など吉原以外では板頭と呼ばれて区別されたそうです。
具体的な出版年は不明ながら、宝暦年間のものとされている吉原細見もあったので見てみました。

出典:『吉原細見』(部分) ,[出版者不明],[宝暦年間]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2534059/1/6 (参照 2025-02-17)
店の御職、ナンバーワン、筆頭に瀬川の名がありました。平仮名(かな)でちょっと読みづらいけど。近頃は変体仮名やくずし字アプリもあるので、読み解いてみるのも楽しい体験です。
みを(miwo):AIくずし字認識アプリ | ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)
源氏物語から蕎麦屋の看板までマスター 変体仮名あぷり・The Hentaigana App 早大・UCLAで共同開発 – 早稲田大学
〇蔦重版 吉原細見 襲名したての五代目瀬川
ドラマでも瀬川の名が乗った吉原細見が登場しました。実物の「籬の花」とドラマとの違いが判るでしょうか。
べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~(7)好機到来『籬(まがき)の花』|NHKプラス
劇中に登場する細見では瀬川の名前が筆頭に上がっています。前に書いた通り、筆頭の花魁は店のナンバーワン。実際の細見では瀬川の名は八枚目に来ています。ドラマでは襲名したての五代目瀬川を際立たせる演出がされたのでしょう。
ドラマでは二枚目に名前が出ている松の井が実際の筆頭。公式の相関図でも松葉屋トップの呼出花魁として登場していますが、実際も松葉屋のナンバーワンは松の井だったのでしょう。さらにうつせみ花魁も実際の細見に載っています。
#大河べらぼう の舞台、吉原の地図と相関図です。
— 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」日曜夜8時 (@berabou_nhk) 2025年1月12日
大門を入って右手に駿河屋、通りを入ると花の井のいる松葉屋があります。
配信は👉https://t.co/BTEi6DcI3B pic.twitter.com/bRCNIYx3Kc
〇 小泉忠五郎版 吉原細見
蔦重と競う形になった西村屋が手を組んだ浅草の摺物屋の小泉忠五郎。芹澤興人さん演じるこの人物の吉原細見も見つけました。「西村屋さんが後ろ盾となって」の台詞通り、細見は小泉忠五郎の名で出されています。
【キャスト・相関図】江戸市中 - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

『吉原細見』(部分),小泉忠五郎 ,安永4 [1775]. 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/2539485/1/34 (参照 2025-02-17)
蔦重版には安永四年「孟秋」とあり、陰暦七月に出版されたことがわかります。小泉版も同じ七月のものですが、双方とも瀬川の名前は載っていました。

『吉原細見』(部分),小泉忠五郎 ,安永4 [1775]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2539485/1/6 (参照 2025-02-17)
ドラマでは蔦重は一度綴じてしまった細見を直前に差し替え、小泉忠五郎は改めが出来ていなかったというシーンが出ていましたが、その後急ぎ差し替えたのかもしれません。
また、二つの吉原細見の松葉屋の項を見比べると呼出花魁の掲載順が違っています。
最初に名前が上がるのがナンバーワン、売れっ子の証なのに筆頭も他も順が違います。この違いはなぜだったのでしょう。吉原との関わりの違いかな?
蔦重版との違いを出したかったのかな、と想像しましたが、前の年の小泉忠五郎版を見つけました。花魁の並びは前の版から変わらず、瀬川を足した形になっていました。御職について書きましたが、そこまで序列にこだわらない時代だったのでしょうか。
また、1年半後の安永6年に鱗形屋さんが出した吉原細見も見つけました。こちらには意味深な名前の並びがありました。今後に繋がるのかもしれないので詮索しないことにします。
〇 薄型イノベーション
蔦重が吉原細見に施した工夫として登場した「薄さ」もデジタルアーカイブで比べてみることができましたよ。
蔦重版は画像で22枚、表紙を除く版面は20丁。見開きで1丁なので今でいう40ページ。
ひとつ前、同じ年の正月に鱗形屋が出した「花乃源」もめくってみました。後ろには鱗形屋の名前の脇に、改め役の蔦重の名があります。この「花乃源」は画像では49枚、表紙と遊紙を除いた版面は45丁。90ページありました。たしかに半分以下ですね。
(参考)『細見花乃源』, 安永4, 鱗形屋,蔦屋重三郎, 大阪大学附属図書館所蔵 出典: 国書データベース, https://doi.org/10.20730/100080741
蔦重のライバルとなった小泉忠五郎版は画像で35枚、表紙を除いた版面は32丁。64ページ。鱗形屋さんよりは薄型です。
デジタルアーカイブでは紙の質や薄さまではわからないのが惜しいですが、見た目わかりやすく半分にする蔦重の戦略で差が出たことは確かでしょう。
それぞれ薄さの違いが大きく出たにも関わらず、松葉屋は大店とあって鱗形屋、蔦重、小泉共に同じ分の半丁分(1ページ)使われてたのはさすがです。
〇 版木での改訂
それにしても今回の放送は覚悟を決めた蔦重の言葉に痺れましたね。そして同じぐらい当時の本作りのご苦労が伝わる内容でした。
「一目千本」の時は河岸店の皆と本を綴じる様子が微笑ましかったり、本職の彫師さんが出演して技が見れて驚いたりしましたが、今回は本作りの手間に協力する皆さんが荒れる事態になっていました。昭和生まれならほんの少しわかるでしょうか。モノづくりをする方には響くでしょうか。現代人にはやや伝わりにくいご苦労ですよね。
井之脇海さん演じる浪人の新之助さんは細見に乗せる女郎の情報量を増やすと言い出した蔦重が次々追加で持ってくる情報を盛り込むために1丁に収める内容を改稿する作業で叫んでは原稿を破り捨てていました。今ならPC上の原稿の一部を直して入稿し直し、といったところでしょうが、紙に筆書きで書き入れる人の数を増やすために文字の大きさを調整し、レイアウトを考えながらやっと書けたところに追加の紙がきて最初からやりなおし。小さな文字をひたすら書き続けて頭がおかしくなりそう。缶詰めで作業を続けるなんて叫ぶしかないよね。そんな心情が伝わりました。
ダチョウ倶楽部の肥後さん演じる彫師・四五六は割に合わない細かい彫り仕事を遊べるからと請け負いましたが、彫り直しの連続となったのでしょう。細かい彫りだって大変な作業です。思わず蚤を投げて(!!)やってられねえ感が伝わりました。お調子者の彫師がそこまでとは殺気立っていたんですね。
とはいえ、発想の転換がイノベーションを生む。必死に取り組んでくださった人がいて技術が上がっただろう様子も伝わる本作りの現場を垣間見た気がしました。
〇 べらぼうきっかけに吉原細見めくってみたら
もう数十年前の学生時代に蔦屋重三郎が吉原細見を出したことは知っていました。別の人が出していたのにどうして?と少しだけ疑問を持ったのも覚えています。それが大河ドラマでいきさつを知れるとは。
あくまでドラマとして楽しんでいますが、劇中のシーンに触発されてすぐに吉原細見を探して見れるのは学生時代には不可能でした。めくるほど発見があり思いがけずあれもこれもとめくりまくってしまいました。
落語で吉原の様子は聴き慣れていると思っていましたが、大店の場所だとか、どの店の名跡だとかは意識していません。大河ドラマで店の構えを見たり、花魁の様子を目にしたり、べらぼうの公式に出る相関図や吉原図を目にした上で吉原細見をめくってみるとなんとわかりやすく楽しいこと。
蔦重版で改良されたレイアウトも、その前からの定番型でも、載る店の順もわかり、読みにくい花魁の名も見つけやすい。細見を楽しむスキルがちょっとアップ?した気がするし、もっと読めると楽しそうです。
一方で落語の高座で着物姿の人を見慣れていると、細見を薄くする工夫も便利なことだと想像しやすい。着物での暮らしでは懐に紙入れ(財布)や手ぬぐいなども入れたでしょうし、それぞれが大した大きさでなくともいくつも入れればかさばるのも想像できます。
日本は文化的にも薄くしたり小さくしたりする工夫は得意で現代まで続いてきました。粋に手ぶらで闊歩する、出すにも見るにもスッキリ見せたいという江戸的な気質もあったでしょうが、実用性が伴うからこそだったんですね。

