直子の探求時間

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『江戸の夢』余談 丸子と静岡の浮世絵

扇辰師匠の『江戸の夢』を聴いて静岡の丸子の浮世絵を探してみた、という前回からの余談。

entsunagi705.hatenablog.com

 

余談 丸子と静岡の浮世絵

丸子の浮世絵といえば広重の「東海道五十三次之内 鞠子」だ。ネットで探してみるとなかなか見つからず他の丸子がいくつも出てきた。探している間に見つけた「丸子(鞠子)」の浮世絵のバリエーションが面白かったので紹介してみる。

 

歌川広重東海道五拾三次之内・鞠子 名物茶店』横大判 錦絵,江戸時代・19世紀, 出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-10569-7103

 


安藤広重 画 ほか『東海道五十三駅風景続画』,岩波書店,1919. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1902623 (参照 2025-05-27)

最初はお目当ての広重「東海道五十三次之内 鞠子」から。

以前からこの絵では「鞠子」と「丸子」の表記と両方見たことがあった。ちなみに読みは「まるこ」ではなく「まりこ」だ。現在は「丸子」と書くが、初版で広重が一躍有名になった東海道五十三次は「保永堂版」と呼ばれるもので「鞠子」になっている。一枚目は「鞠子」にはなっているが初版とは色が違うようなので違う版のようだ。二枚目は「丸子」この2枚だけでも色合いの違いで季節さえ違って見える。

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(左)香蝶楼国貞『東海道五十三次之内 鞠子ノ図』,佐野喜. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1308864 (参照 2025-05-27)
(右)香蝶楼国貞『東海道五十三次之内 鞠子ノ図』,佐野喜. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1305834 (参照 2025-05-27)

こちらは香蝶楼(こうちょうろう)国貞となっているので三代 歌川豊国、初代 歌川国貞のものらしい。広重の作品を思い浮かべる美人画といった趣向か。版を重ねたのか、女性や旅人達の着物、山の裾野の色使いなどが変わっていて国貞の字も潰れている。

歌川 国貞 初代 | 錦絵でたのしむ江戸の名所

上の絵のひとつ前の府中(静岡)が美人画の代わり種で面白かった。


香蝶楼国貞『東海道五十三次之内 府中之図』,佐野喜. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1305859 (参照 2025-05-28)

旅姿で振り分けの荷物の女性。なんだけど荷物は棒に括りつけたなかなかの大荷物。片肌脱いで鉢巻までしている。着物の裾の途中を巻いているのははだけない様にしているのだろうか?後ろに安倍川(安部川)の渡しが見えるのでこれから川を渡る形なのかもしれない。美人画ではあまり見ない旅姿だ。

 

同じ国貞では広重とコラボしているこんな作品もある。実力のある二人の競作とあってどの宿場も見応えがある。


広重,豊国『双筆五十三次 鞠子』,丸久,安政1. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1308469 (参照 2025-05-28)  こちらは「豊国画」となっている。

この絵の右下の箱の中にあるもの、「宇津ノ谷の十団子」かなあ?

静岡市歴史めぐり まち噺し #154 宇津ノ谷の十団子【語り】春風亭昇太 -YouTube

 

お次は「これはどういう状態?」というもの。


『書画五拾三驛 鞠子』, 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/9369966/1/26 (参照 2025-05-27)

時代も絵師も明記されていないが、『書画五拾三驛』の表紙から「暁○芳虎等画」と読み取れる部分がある。芳虎とは歌川国芳の門人・歌川芳虎のことで、幕末から明治中期に活躍した人物。他の芳虎の作品と比べると「芳虎画」の部分が似ている気もする。

『書画五拾三驛』は宿場ごとに故事や芝居などから画題を工夫したもので、こちらも見応えがある。いくつか弥次喜多が登場するものがあったので、これはそのうちのひとつか。副題が「宿場の狂戯」となっている。店で喧嘩になってすり鉢が割れてとろろ汁が飛び散っている様子だろうか?片方がすり鉢を投げて、もろに被ってる方が避けようと叩き割ったのか?叩き割っているのはすりこぎだろうか。まさか自然薯じゃないよね。。

ちなみにこちらのひとつ前は府中ではなく静岡。鞠子にいた喧嘩連中は髷頭だったけれど時代は明治ということだ。安倍川の渡しから程近い二丁町花街の夜が描かれている。


『書画五拾三驛 静岡』,国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/9369966/1/25 (参照 2025-05-28)

明治8年に出た三代広重の『東海名所改正五拾三驛』を見ると、「改正」の名の通り景色は様変わりしている。鞠子(丸子)でとろろ汁を食べる旅人はざんばら頭で道には人力車、府中は静岡と名を変えて、安倍川(阿部川)には橋が掛かり「名物あべかわ餅あり」とある。

廣重 畫圖『東海名所 改正五十三驛』,山清,明治8 [1875]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/9369213 (参照 2025-05-29) 左が鞠子(丸子)、右が静岡

最後にもうひとつ。こちらも三代広重のもの。

廣重 筆『大日本物産圖會』第1帖,大倉孫兵衛,[18--]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1910973/1/22 (参照 2025-05-29)

これは丸子からも外れて完全に自分の好みで選んだ一枚。『大日本物産圖會』に描かれた駿河竹細工の店先。駿河の国といえば竹細工が名物というのは江戸時代以前からのことで、現在は駿河竹千筋細工が国指定伝統的工芸品となっている。実家の近くにも竹細工の職人さんの作業場があったのを覚えている。

以前三遊亭圓朝について調べた際も、土産として竹細工を買ったという手紙を見た覚えがある。軽くて割れることもなく、下げて帰れる品もあっただろう。『大日本物産圖會』は各地の名物名産が描かれているので当時も人気があったものだそうで、絵を見ていくだけで各地の名産を知る景色が続いて面白く発見があった。

大日本物産図会について|史料館だより|渋沢史料館|公益財団法人 渋沢栄一記念財団

 

『江戸の夢』からかけ離れた余談になったけれど、気になる物語の舞台を土地で探すのも面白い。浮世絵の「丸子探し」(+静岡探し)を存分楽しんだ。

 

『東海名所 改正五十三驛』には「浅草並木山清板」とあり浅草並木の山清の版のようだ。これで少しだけ『江戸の夢』に寄せたことにしよう。

今更ながら、浅草並木は小唄「並木駒形」の並木だったと気づいた。雷門から南に駒形堂、吾妻橋辺りまで、今は並木通りとなっている場所。今は自動車、明治時代は人力車で賑わい、昔は吉原へ向かう道筋という訳か。今度は丸子からも茶人からも離れてしまったけれど、どことなく『江戸の夢』に違う意味で近くなったような。

浅草並木町の古地図などを見てちょっとよくわからないことを言ってしまった。改めて宇野信夫氏の『江戸の夢』を読めないかと探してみたのでまた別で書く。