5月下旬に入ったばかりなのにもう暑い。そんな日に人形町へ行ってきました。
到着するともうロビーは人でいっぱい。知った顔の皆さんに声かける。近所の風鈴の音がどうのとか、子供の泣き声がとか騒音雑談。うるさいと風情の境目は難しい。風で鳴る木の葉の音はうるさい人と好きな私。自分の耳とコンディション大事だな。
客席に入ると外の暑さに比べてヒヤッと寒い。もう空調の寒暖差を気をつけないといけない季節。ハンカチとストール完備。いつもの飴を移動途中で仕入れてきたから安心。ケータイオフ、事前準備完了。

一、あいさつ 兼好
一、初天神 げんき
一、つる けろよん
一、岸柳島 兼好
ー仲入りー
一、マジック 上口龍生
一、不孝者 兼好
あいさつ 兼好
「ようこそおいでくださいましてありがとうございます」とお決まりのご挨拶に「一度もコメを買ったことがない三遊亭兼好です(ピース)」の第一声。もちろん、師匠は満面の笑み。「私も(会津)坂下というところに田んぼがあって「兼好米」っていうお米を作ってるんです。でもちゃんと買ってますしね」ってそうなの!?買ってるの!?と驚く。とはいえ兼好米を販売している所も販売する品をを用意することが難航していると聞いた。農家さん自身が食べるお米もないこともあるらしい。
江藤大臣の退任が決まってしまったと報道されたばかりで「さっき聞いたけど、噺家としては農水大臣もう少し粘ってほしかったですね」「大臣室に籠城とかして「コメは売るほどある!」とかやって欲しかった」と他人事を楽しむ師匠。時事ネタの洒落は半分笑えるけど、近頃はすぐ叩いて下ろす。そんなおっさんどこにでもいるけどね、と思うのは我のみか。
暑くなってきて師匠も着るものに困る時期になってきたそうで、「本格的に暑くなる時期はみんな対策するからいいけれど、今ぐらいがかえって事故がおこりやすいのでお気をつけを」とのこと。たしかに暑さに慣れていないで熱が籠る。「千葉の某所の平日の午前中」の落語会。ご高齢の方が多くてどうかね、と話していたら二ツ目さんの高座中にガクンと気を失った人がいて、係の人がワッと近づいて介抱しようとするとバッと起きて「大丈夫よ!あの人(二ツ目さん)があんまりつまらなかったから寝ちゃっただけヨ!」と言い放ってその日一番のウケだったそうな。面白いけど迷惑な。二ツ目さんは名誉のために名前は伏せられた。
でも私は知っている。客席で意識を失って救急車で運ばれる人はいる。そして、ほとんどのホールには医師や看護師は常駐してません。伝統芸能は客席に長時間座ったままになることも少なくありません。トイレ心配して水分控える人も危ない。みなさん、熱中症や体調管理は落語でも気をつけましょう。
万博の来場者が目標に達成していないらしい。その中でも、午前中に人が集中しているというニュース。「高齢者が多いからなんじゃないでしょうか?」と師匠。「なのに、来場者を増やす対策が後ろに1時間延長(23時まで)なんてダメでしょ。朝9時からを朝5時からとかにすればいいんじゃないですか?(客席を見て)朝5時からうろうろしている人もけっこういるでしょ?」なんて言い様。「早朝からあれこれ一通りやって、朝の連ドラ見たら「あ~今日やること全部やった!」って人いるでしょ」って師匠もそんな時間からうろうろして過ごしている調子で言っている。
更に「寄席もそういう時間からやったらいいんじゃないですか?」と言いだす。何でも上野のお山あたりは早朝から1万人ぐらい(ホント??)集まっているらしい。ラジオ体操?聴き逃した。「終わった後はまだ喫茶店も開いてないし過ごす場所がない。そこに寄席が開いてたら、かなり入るんじゃないか」
どちらかというと店を開ける側にいることが多いので、万博だろうが寄席だろうが、働く側を想像して苦笑いしていると「で、来ないのは出演者だけ、ということになるんで上手くいかない」とオチがつく。芸人さん達が早朝営業でなくて助かった。
万博の話、人形町へ出かける前にちょうどラジオで航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さんという人の話を聞いていた。入場者数の目標は下回っているけど、夕方からのナイトチケットの売れ行きが好調で、17時からのチケットで16時から入場できて楽しめるのだとか。その上予想外なのがミャクミャクグッズが売れに売れていること。今は大阪土産でミャクミャクが入っていないものは売り上げが落ちているなんて話もあるらしい。
午前中に人が多いのはもちろん日中との気温差や年齢層もあるかもしれないが、1番2番の人気パビリオンは9時の開園からダッシュして9時2分についても2時間待ちという状況なんだとか。大阪はホテルも高いのであらゆる交通網を使って万博へ10回以上行ってベストな方法を検証しているという人の話を聞いていると、そこまで攻略しないといけないのか、とげんなりしていたところだった。前評判から考えると前回の万博同様に始まれば楽しい場所に変わるらしい。
ラジオで聴いた話と師匠の案を聞いたところで、スマホ予約ができない機械に弱い来場者のために、現地で予約できる機械を早朝から使えるようにすればいいんじゃないだろうか、と思ったのだった。そうすれば、早朝から迎える方の人員も少なくて済む。それにしても朝9時から夜22時(もしかして23時)までを10月まで働く人達、無理なシフトを組まされていないことだけを祈る。今はお客さんも従業員も22時完全撤収の劇場みたいなルールらしい。そりゃドローンも出口を差すよね。
師匠の話は先日行かれた、長崎の旅仕事のお話へ。「いまは気をつけなきゃいけないんでしょうけど、ちょっと子どもを甘やかかしすぎじゃないかと思うんですよね」と始まった。長崎の仕事へは、三遊亭歌武蔵師匠とご一緒。元お相撲(力士)で自衛隊の活動にも縁があるらしく、師匠曰く「時間に厳しい先輩」とのこと。普通の入り時間より15分、新幹線なら30分、飛行機なら1時間前には来ている方なのだそう。
あまり先輩を待たせないようにと待ち合わせ時間よりかなり早めに空港に向かった師匠。荷物検査のところへ来たら修学旅行の中学生達に出くわした。ならぶでもなくならばないでもなくぺちゃぺちゃうるさい。先生がビシッと注意を「しない」で、学生に「今日、先生の格好、ヤバくない?」と言われてその気になっている。そこに歌武蔵師匠から「ゲートについたよ」と連絡が。早く行きたい、急ぎたいけど仕方なく中学生の間に並ぶ師匠。
お着物だと探知機を通った後にもボディチェックを受けるのだそうで袖やら裾やら確認されるが「そんなとこに銃とか隠すわけないだろ!」と師匠。きっと過去にルパン三世の石川五右衛門よろしく刀とか隠してた人がいたんだろうね。その姿を見た中学生が「あれ、ヤバくね?」
手荷物検査のベルトコンベアから出てくる荷物も出てくるたびに中学生がはしゃいで囃し立て、荷物の持ち主が「やめてよー」といった調子。どう考えても囃す方が男子でやめてよが女子で想像される。師匠のキャリーケースは八百屋さんのものだったか失念したが、「安全第一」に大きく「丸に勉強」と書かれた好きで集めていた前掛けをアレンジして取り付けてあったそうで、出てくるなり「勉強だって!だれだよー!」と最高潮に盛り上がっている。嫌々ながら師匠が取り上げるとさっきまでMAX最高潮だった中学生がシュッと恥ずかしそうに眼をそらす。
そんな奴らからようやく解放された、と思ったら合流した歌武蔵師匠が「アレと一緒だ」と言う。結局さっきの修学旅行生達と同じ便だったのだそうだ。二列位後ろに一団がいて「ヤバい、ヤバい」と一層うるさい。離陸で上昇すると中の一人が大きめに「ヤバくねー!」その日本語に冷静に「これおかしいですよね?使い方違ってますよね。どうせ言うなら下に落ちそうになった時が「ヤバくねー!」でしょ?」おお、確かに。
しばらくしたら、ひとりの学生がトイレに行くと言って席を立つ。「俺も俺も」とぞろぞろ並ぶ始末。「俺もはこっちですよ、早く行きたいのに長い列出来ちゃって(師匠もぞもぞ)」
ようやく落ち着いたので師匠もトイレへ行った。そこから、「着物でトイレはむずかしいんですよ」と着物でトイレのご説明。「右で裾をまくって反対を上げて。。手が1本足りない」聞いてるこっちが恥ずかしいんですけど。「なんとかして用を足そう、という時に飛行機が左右に揺れてヨガみたいな状態になって」と師匠が着物でヨガポーズしている。鷲のポーズかな?みたいな。その様が飛行機のトイレ内に見える!仕草力?こちらの想像力?と驚いた(笑)CAさんが「大丈夫ですか?間もなく着陸態勢にはいるのでお早めに」とノックしてくる。お早目にできる状態ではないからと、もう座ってすることにした。ようやく、というときにフッと飛行機が(エアポケットに)落ちて、さっきまで散々耳にしているから思わず「ヤバくね!!」と叫んじゃったんだそうだ。このサゲまでの長い「ヤバくね!」が起承転結がついてる漫画になりそうだから可笑しい。
初天神 げんき
毎回気になる名乗りのところでぼんやりしていたのでつられて拍手しかけたが、なんかヤダ。みんなが応援したくなるキャラげんきさん。なんでも拍手するのが嫌な私。
げんきさんはもう初天神をやる感じなのか、と思いつつ、やはり兼好師匠が好きなので、お弟子さん達の仕草があいまいだと気になってしまう。金坊にねだられた飴を選ぶのにいちいち指を舐る様子は、げんきさんの味噌豆をよそう仕草と同じぐらい気になる。プロで慣れているとはいえ、覚えた話をやりながら仕草をつけるって難しいよね。
つる けろよん
続いて「そう簡単には師匠は出てきません」とけろよんさん。元々短い「つる」を更にショートバージョンで。「ものほし」と「もろこし」をひっつめたり、「つー」と「るー」の失敗をまとめたりが上手い。「つーるー」を元気よく叫んで間違えた時の目をひん剥いてる顔が可笑しい。けろよんさん、普段が落ち着いて見える顔なので、思い切った表情をやるとギャップが個性ででるのかも。昇進後に役者絵みたいな形も見てみたい。
巌流島 兼好
袴姿で登場した師匠。失礼ながら三河万歳を思わせる彩り。師匠が時々履いている鬱金色の袴はあまり芸人さんが履いているのを見ない色袴で何袴なのかと見る度気になる。
師匠のお宅は荒川と隅田川の中州のような場所に位置していて、川沿いを散歩すると暖かい時期はボートに乗ったり船に引かれて水上スキーをする人も見るのだとか。「楽しそうなのでちょっとやってみたいなあと思い調べてみたんですが、川で何か遊びをするのに基本的には資格はいらないんだそうですよ」と師匠。ホントに?
もちろん競技やイベントをするときは届が必要だし、遊泳禁止区域や自然保護区域に指定されている場所は制限があるが、それ以外は基本的には泳いだっていいそうだ。ボートの資格なんかも2日ぐらいの講習で100%合格できるらしい。
調べたことをおかみさんに話すと「あら、いいわね」と乗り気。師匠がボートを操縦しておかみさんが水上スキーに乗って、なんて話していると「どうせ途中で引っ張ってる紐をプチって切るんでしょ」とおかみさん。「・・・なんでわかったんだろう」と師匠。なんだかんだで仲の良いことで。
歌武蔵師匠は岐阜のご出身で、お父様はお相撲からお寿司屋さんになったらしい。歌武蔵師匠が子どもの頃は忙しくて、あまり遊ぶ時間があまりなかったんだそうで、川遊びの話を聞いたのだそうな。
まず親子で車に乗り、一緒に川の上流へいき、大きなタイヤを浮き輪のように着けて「じゃあな」と子ども(歌武蔵師匠)を川へ流す。お父さんの方は車で元来た道を下って、下流で子供を受け止めたんだそうだ。「ホントですか?」「いや、そんなもんよ」というやりとり。でも長良川ならいい川幅や緩やかな流れのところで出来そうに思えてしまう。同時に小さい頃に田舎の安倍川上流に町内集まって河原行きと称して遊びにいった時に川で流されて、父親に助けられた苦い思い出も浮かぶ。今は川で泳ぐこと自体する人が減って、大人の方も流されるかもしれない。中学生ぐらいまでは部活の帰りに連れだって川に入って遊ぶ(泳ぐ)ことはあった。今は迂闊にそんな遊び方は提案できない。
師匠は「せっかくなんで猪牙船みたいな和船を作って乗りたい」と思ってどれぐらいでできるか調べているんだそうだ。驚いたけど考えるだけならお金のいらない遊び。「櫓を作れる人が1人しかいないらしいから相当お金はかかるだろう」と言いながら「もしできたら弟子に漕がせようと思って。けろよんは船頭っぽい顔だし、げんきは流されそうなんで」と笑わせる。師匠は船に乗って「船徳」か「あくび指南」の稽古でもしそうだ。
「雑排の題詠で「サァ事だ」なんていうものがある。
『サァ事だ 研屋の親父 気が狂い』
刃物を扱う職人の気が違ったら大変だ。
『サァ事だ 下女鉢巻を 腹に締め』
これは・・・おわかりかわかりませんが。お店で働く女が腹に鉢巻をするようになるということは、サァ事だ、という話。」なぜかここでゲラゲラ笑ってしまった。一瞬わからなかったので気づいてアハ体験。マクラで笑い過ぎて途中で咳き込んで止まらず苦労した。すぐ出せるよう持っている飴が暑さで溶けていたのでなんとか我慢する。
「『サァ事だ 馬の小便 渡し舟』
昔の船は人の上下、人畜に関わらず乗れたといいます。動物は忖度がありませんから、船の上ではどうしようもできないということで」と「岸柳島」へ。
話し始めに隅田川にかかる厩橋の話に。この落語は厩橋辺りの話だったのか。と厩橋を思い浮かべる。毎年2月に開催される「そば打ち寄席」に参加する時は、蔵前から厩橋を渡って本所へ行く ので馬のモチーフなどを川風に吹かれながら眺める場所だ。
厩があったことから近くの川の渡しが「御厩の渡し」となったという話が出たので、浮世絵を探してみた。

葛飾北斎『冨嶽三十六景・御厩川岸より両国橋夕陽見』(ふがくさんじゅうろっけい おんまやがしよりりょうごくばしゆうひみ) 江戸時代・19世紀 出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システムhttps://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-11176-4 (参照 2025-05-23)
北斎の冨嶽三十六景に御厩の渡し船があった。古地図アプリでも見てみると、隅田川西岸の吾妻橋と両国橋との間に幕府の米を貯蔵する幕府最大の米蔵「浅草御蔵(あさくさおくら)」があり、両国橋脇の米蔵が並ぶ辺りの中ほどに吉原へ猪牙船で行くとき目印になるという首尾の松がある。北斎の絵では夕景で米蔵と首尾の松はシルエットになっていてはっきりとは見えないが、たくさんの杭に囲まれた場所なのがわかる。画面の右端の見切れたあたりか、米蔵の脇の吾妻橋寄りが御厩河岸と呼ばれた。幕府の厩(馬小屋)がおかれたことが名の由来で、御厩河岸から東岸の本所との間をつないだ渡し舟が「御厩の渡し」といわれた。
遠目に富士山が見えたことから「富士見の渡し」とも呼ばれていたそうで、北斎の絵にも本所から見た景色で両国橋と共に描かれている。度々転覆事故があり、明治時代初期に「御厩の渡し」の下流に木造橋がかけられ、明治時代後半には老朽化で鉄橋となり、その後の都市計画での掛け替えもあり現在の厩橋は「御厩の渡し」があった場所のやや上流になった。
和船やら猪牙船を調べていたら江東区で和船に乗れそうな記事を見つけた。ちょっと体験してみたい。落語を知ってたらなにかしらその気になりそうだ。(そしてなぜ団体のトレードマークが三つ組橘なんだろう??)
江戸情緒を伝える心地よい揺らぎ~和船友の会(1) | 日本伝統文化振興機構(JTCO)
江戸情緒を伝える心地よい揺らぎ~和船友の会(2) | 日本伝統文化振興機構(JTCO)
芋洗いの渡し船に飛び乗ってきた若い侍。威張り腐って場所を空けさせ、どっかと座った男は「朱鞘の二本差し」を差している。「とても色男とは言えない」男に「似つかわしくない銀の無垢の雁首をつけた煙管」。雁首を落とした若侍に近づいた屑屋がうっかり売り声を口走って逆上させてしまった。間に入った初老のお武家さま相手に勝負する気になる侍。船上での殺陣の形に思わず見得を切り「まるで菊五郎みたいになりまして」と師匠が言ってその形になるとやんやの拍手。菊五郎襲名披露のこの時期、というのがわかると楽しく「朱鞘の二本差し」が「中村仲蔵」の拵えを思わせる。
若侍が遠くなる岸に置いて行かれて、辛抱していた船の上の人達は解放気分。好きに文句を叫ぶ人達の中で船頭が「駆け込み乗車はおやめください!」と言ったり、「なんか言ってやれ!」の声に「くず~ぃ」とやっぱり売り声出る屑屋さんも可笑しい。
泳げないとみられた若侍が着物を脱ぎ褌一丁で短刀を腰に差し、桟橋で二三度とんとんと飛び跳ね川へ飛び込むのを見て「よほど水練に長けた人物と見受けた。船の底に穴を開けに来るやに違いない」というお武家さま、よく考えたらちょっと周りを脅し過ぎだよね。若侍が川に飛び込んでまで探しに来た銀無垢の雁首、どんな誉れか代物か。
仲入り
落語を聴いているうちに咳は収まったけれど、ロビーで飲みもの買って潤す。笑い過ぎたとはいえ、咳を堪えるのは近頃珍しい。来る前に手に入れた飴の袋を開けて補充を試みるも、外国製の袋が無駄に頑丈で開かない。口で切ろうかとも思ったが、飲み物で乗り切ることに。カルディで買ったモンクスに文句す。
ゲスト 上口龍生
幕が上がり、ハイテンポなBGM。マジシャン登場。見た目通りと言ったら失礼だが、キザな登場で華麗にハンカチからステッキを取り出す。
トランプを次々手から出したり、新聞からグラスに水を注ぎ、ハンカチの結び目が抜けて、再びカードマジックへ。音楽に乗せてダンサブルに決めていくスタイルだ。
ひとしきりマジックを披露して喝采を受けたところにマイクスタンド持ってきて自己紹介。「私はマジシャンになろうと思っていたわけではないんです。なりたかったものは・・・」と紐を取り出す。「ヒモ」かよ。といいたいところだけど振る舞いがちょっと似合ってて可笑しい。
次は紐を使ってのマジック。客席の一人に紐を渡してタネがない品か確認してもらう。舞台に上がるよう言われたお客さんは若干躊躇。恥ずかしいのかと思ったら、この「リョウコ」さんがなかなかの濃いキャラだった。
ステージに上がってすぐにマジックのネタが入ったバスケットをのぞきこんで笑いを取る。「紐を同じ長さに切ってもらう・・・」と龍生さんの説明途中で適当に紐を切ろうとしたり、フェイントで切る真似をしたり。調子を狂わされる都度「リョウコ・・・」と龍生さんが名前を呼ぶので、その都度客席が大ウケ。マジックはお見事なんだけど、入ってこない。素人ってコワい。振り回されながらも終始優しく接する龍生さん、さすがなりたかったのがヒモだけはある。
最後は華麗にチャイナリング。チャイナということで6本のリングをブルース・リーの「燃えよドラゴン」のテーマ曲に乗せて。華麗に進んでいたのに、最後は突如消えるようにハケて行った。あれ、リョウコとの夫婦漫才みたいなマジックで時間伸びちゃったんだろうな。。
不孝者 兼好
淡黄蘗色の着物に黒紋付きの羽織と落ち着いた装いで師匠登場。
「先程は上口龍生さんで、素晴らしいですねえ。脇の仕事でお会いしてお呼びしたんですが、仕事を頼む時にあの通り背が高くてキリッとしていて、ちょっと怖い人なのかなあと思いながら話をしたら、その時もさっきみたいにキリッとした顔で間をおいて・・・「私落語とか好きなんです~」と満面の笑顔で受けてくれました。」と腰が低い上口さんの真似をする師匠。「またお呼びしたいと思いますね、”リョウコ”と一緒に」師匠が逃すはずもないリョウコのキャラ。もはやステージネームで呼び捨てたい。
「先日高輪ゲートウェイへ仕事に行って来ました。」と高輪松竹亭の話題に。その前の横浜の独演会の後、移動中に何をやろうかと考えて「まちおこしの会でもあるというので、目出度い話をと、高輪あたりの話で最近なかなかできなかった『井戸の茶碗』にしよう、というつもりで来た」そうだ。屑屋の清兵衛さんから仏像を買った高木佐久左衛門がいたのが白金の細川家のお屋敷。細川様のお屋敷は白金高輪の駅前辺りにあったとされるので、たしかに山の手側とはいえ歩ける位近い。
「松竹の社長が日本舞踊を応援しているんだそうで、日本舞踊の方々も出られて非常に美しかったんですが、順番がまた良くて、日本舞踊の前に一之輔くん、後に夢丸師匠。坊主に挟まれてひときわ美しくみえる演出が良かった」言われてみればたしかにそうだけど、そういう見方をして面白がってたのは師匠だけだろう。いや、いまは一之輔師匠は笑点でも坊主をネタにしているからもはやマジョリティーか。
普段落語会をするようなホールではないので、楽屋から舞台の間も距離がありモニターもなく、出番がトリだったので時折袖に行っては様子を見ていたという師匠。そうだったんですね。きっとあの御簾裏の辺りに。。などとあの日を振り返る。開口一番の田辺いちかさんが武士の話をしたので井戸茶はダメだなと思っていたら、周りが「いやいや、落語じゃなくて講談ですから大丈夫ですよ。」と言うのでまだそのままのつもり。
仲入り後に舞台袖で日本舞踊を綺麗だなと見た後、夢丸師匠が殿様が出てくる話に入り、「あ、ダメだ」と楽屋に帰り、ネタ帳を捲って何かないかと考えて、暑いし『ちりとてちん』にしよう!と決めた。舞台袖に戻って聴いてみると殿様が団子を落としたりしてる!(ネタが)ついちゃうから『ちりとてちん』もだめだ!どうしようと思ってさらわずにできる泥棒の話にして、『井戸の茶碗』はここ(人形町噺し問屋)でやろうということにした。
のに。
師匠は気づいた。「一席目でお侍やっちゃったじゃん!自分で!」
高座の上で高輪からの顛末を話しながら「さて、なにをやろう。。」と考えていたんだ。そう聞くと淡黄蘗(うすきはだ)の着物に黒の羽織が『井戸の茶碗』に登場する高木佐久左衛門にも千代田卜斎にも見える。そのつもりだった?と深読みしてクスリ。
旦那が若旦那の供に出た飯炊きの清蔵が先に帰ってきていると聞いて呼び出す。こんな場面はいくつか思いつくなと思っていると『不孝者』だと気づく。「不孝者めが」と旦那が言ったからだ。
マクラで笑うからか、またもや落語の始めにややむせてしまい水分補給する。『不孝者』は好きな噺なので、話にのめりこんでそのうち治まってよかった。空調に気を付ける季節は笑い過ぎにも気をつけないと。笑いながら水分補給するのも誤飲して危険なのを先日目撃したので気をつけたい。蒸し暑いのは苦手だけど潤いって大事。
旦那が思いついて若旦那の迎えに自分が行って脅かしてやろうと飯炊きの清蔵と着物を取り換えるところで、清蔵が旦那の着物を着てその気になり「さあ、茶を淹れろ」と訛りなしで旦那に言いつけるのが可笑しい。
『宮戸川』も最後に少し男女の色を感じるのが好きな落語だけれど、『不孝者』は年を重ねた男女の艶っぽさが素敵な噺。どちらもわざとらしくならずいやらしくならないのが師匠の落語で聴きたいところで、泣かせるのとは違う人情噺みたいな心持ちになって落ち着いた心境で終わりを迎える一席だ。
「もうあたしもこの年だ、色気抜きでさ、もう昔話できる人も少なくなってきた。どうだろう、もういっぺん飯でも食いながら話をしたりなんだり・・・虫がいいのはわかってるけど、そういう仲になっちゃもらえないだろうか」そういう台詞を言えるガツガツしてない旦那、どっかにいませんかね(笑)
終演後
ロビーで記念写真撮るみなさんの合間を縫って師匠にご挨拶して帰路。夜道を歩きながら『不孝者』の台詞をしみじみ味わう。「色気抜きで」という言葉に色香があるのが面白いなとか、単に印象の話だけど「欣也」という芸者ならではの名前も色香を感じたり。そもそも旦那と芸者というつきあいがわかってないんだけど、どこか「親しき仲にも礼儀あり」を感じる関係に思える。この二人はもう連れ合いもいないし、という話だが、今でいう不倫だの浮気だのが少し遠く感じるのは良い方に考えすぎか。結局はお互いの人(人間性)に因るところだろうけど。
おまけ
プログラムと一緒にもらってきたチラシ。三田落語会はもしかしたら完売かもしれません。7/8(火)19時・横浜にぎわい座での「西のかい枝 東の兼好」は発売日にチラシが出てなかったので手に入って嬉しい。人形町のチラシも前回写真で撮った気がするけどひょうたんの色がきれい。次回6/6の人形町噺し問屋は完売御礼ということですので、ご興味ある方はチラシにある7月以降の日程をぜひチェックください!




